空間工房森田

岐阜県の一級建築士事務所・工務店

コラム

高温多湿な気候風土とパッシブデザイン

日本という国土には四季折々豊かな自然環境の変化があり、我々をいつも楽しませてくれます。
その一方で建築にとってはとても難しい気候であることは間違いありません。
わたしたち人間は、夏は風通しの良い半袖姿に、冬は厚手のダウンジャケットを着て過ごすことができますが、建築はそのときの天気に合わせて着替えることはできません。1つの建築で1年を通して心地よい環境をつくるにはどうしたらよいのか考えていきます。

◆軒の出のある家

現代の新築住宅において、どのような工法であれ、昔のような隙間風が窓や壁から吹き込むようなことはまずありません。
よく「気密性能」ということばを耳にされると思いますが、人間が暮らす上で必要な気密性能は現代住宅にはすでに整っています。

一方で無くなってきたものが「軒の出」です。
屋根の庇の出る量のことですが、これが昨今の住宅には減ってきました。
和風色あるデザインから遠ざけるためにデザイン上無くしたいという場合もあるのでしょうが、何よりコストがかかるために減らされてきました。
一般的に坪単価を計算する際に床面積で総価格を割ることが多いですが、「床面積の外側」にある庇は作れば作るだけ面積単価が上がるのです。当然です。あっても無くても床面積は変わらないのですから、無い方が経済的ですね。

しかし私たちは「軒の出」を日本建築には必ず必要なものだと考えています。
木材にとって水分は大敵です。腐食を促す菌の繁殖には水分が不可欠で、いかに木材を湿気から守るかが長寿命な家づくりにとっては重要です。「外壁」は一見雨をきちんと防いでいるように見えて、湿気や水分に影響を受けています。

◆経年劣化の落とし穴

どんな高性能な外壁材であれ、要所に使われる「シーリング材」で永久に耐久性能のあるものは今のところ存在していません。
新築時は良くても、経年変化でシーリング材が剥離すると雨水・湿気の侵入が見られます。外壁の劣化を遅らせるためには日差しを当てないこと、それと雨に当てないことが重要で、そのためには深い軒の出が必要です。軒の出があれば外壁が激しく劣化したとしても、雨の当たる量が少ないため雨漏りなどのリスクを大幅に減らすことができます。私たちは深い軒の出を標準的に採用し、構造部分や外壁が雨に濡れる回数自体を減らすよう設計しております。

◆高温多湿な気候に適したつくりかた

また世の中に多数流通している「ホワイトウッド集成材」や、外壁に採用することの多い針葉樹合板等のベニヤ材は接着剤で材料を重ね合わせてつくっています。そうした木質材料は湿気や経年変化によって接着部分が剥離し、湿気を溜め込むことで構造体の腐朽を誘発します。乾燥した気候の北米で開発された2×4(ツーバイフォー)や、それに類するベニヤで外壁を覆う建築、軒の出の無い建築が世の中に流行しておりますが、高温多湿な日本の気候風土を鑑みて私たちは採用しておりません。

無垢材は接着剤と異なりもともと湿気をたっぷりと帯びていた天然の木材ですから、湿気を含んでも乾けば何の問題もありません。日本の寺社仏閣を見ても、無垢材ばかりで構成され何百年と建ち続けています。構造を無垢材でつくることはとても大切なことだと考えています。そのうえで通気層だけでなく構造体同士の接合方法や防水紙の張り方、外壁の構成方法など、各防水部分において施工時にひと手間を加えることで、雨や湿気に強く、構造材の乾燥を促す工夫をして長寿命な家を実現しています。

◆建物の省エネ性能とは

また深い軒の出には「省エネ性能」の観点でもメリットがあります。

人間が豊かに住む以上、断熱性能は必要です。当社では繊維系断熱材を採用しております。国が求める断熱基準に適合する高性能断熱材です。吹込み充填系の断熱材は壁内結露によってできた水分が乾くことなく溜まり続け、構造腐朽を誘発する危険性があるため採用しておりません。昨今、さまざまな断熱性能が数値化され、各社が数値の向上を目指しております。建物の断熱性能に対して、熱の逃げ道のほとんどは窓からのものです。軒の出が無い住宅は夏の日射が強いと窓から熱が入り省エネ性能も落ちるため、小さな窓の家が世の中に多く出回ってきました。

◆大きな窓のある家

私たちは軒の出の深い家を標準採用しているため、軒の出によって太陽高度の高い夏の日差しをカットし、太陽高度が低くなる冬の日差しを多く取り入れるよう設計しております。窓が大きくないと冬の暖かい日差しを取り入れることができませんし、暑い時に風を取り込み熱を逃がす効率も落ちてしまいます。「日射熱取得率」「日射遮蔽係数」という専門用語が出回っていますが、日射を遮蔽しきることにはデメリットもあります。

夏場の日影は大切です。庇だけではありません。庭の南や東西に大きめの落葉樹を植えることも効果的です。夏場には葉が生い茂って日差しを遮り、冬には葉が散って日差しを室内に運んでくれます。

こうした建築の形や自然環境の設計によって熱環境を整える手法のことを専門用語で「パッシブデザイン」と言います。

省エネ性能を上げること自体は地球温暖化を抑えるための国策としては重要ですし、これからの地球環境を守るため大切な動きだと考えています。しかし窓のない「冷温庫」のような機械に管理された生活をするよりは、少しだけ暑い日は庇を出して影をつくり大きな窓を開けて涼しい風を取り入れ、冬場は日差しをたっぷりと室内に取り込むような、自然な生活の方が省エネにも健康にも良いのではないかと考えて日ごろデザインをしています。省エネの手段は一つではありません。エアコンなどの機械を極力使わない時期をつくることもまた省エネになるのではないでしょうか。

◆長く住み続けるために

家は使い続けると何かしら不具合が出てくるのでメンテナンスが必要不可欠です。強制換気装置などを使用することが前提の設計で機械が壊れた時に温熱環境の立ち行かないような建築構成は、メンテナンスをしていくうえでもデメリットがあると考えております。メンテナンスにはお金がかかりますから、維持するのにお金のかかる仕組みは必要最小限にとどめるべきだと考えます。床暖房やエアコンを併用しつつ、窓を開けて暮らせる時期をたくさん設けることが、機械と人間のちょうどよいバランス感覚だと思います。

私たちは太陽光や太陽熱、自然風を効率よく家の中に取り入れ、夏涼しく、冬暖かい空間づくりを実現します。

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