東濃ひのきと構造の話
今回のコラムでは建築の根幹たる構造・材料についての内容をご紹介します。
完成後は見えなくなってしまう部分ですが、長寿命の家づくりには欠かせない要素です。
ちょっと長くなりますが、興味のある方はぜひご覧ください。
◆東濃ひのき
まずはじめに「構造」にも「デザイン」にも重要で、私たちのこだわりのひとつである東濃ひのきについて。
空間工房 森田の家は、標準仕様としてすべての柱に「東濃ひのき」を採用しています。
東濃ひのきは伊勢神宮の式年遷宮にも使われる銘木で、通常のひのきよりも年輪密度が高く、淡いピンクの木肌を持ち合わせています。
一般的なひのきよりも高密度であることから材料強度が高いということ、またその細やかで淡い表情がとても美しいことが特徴の無垢材です。
この柱材を大黒柱だけでなく、壁の中で隠れてしまうすべての柱に使うようにしています。
通常のひのきより一般的に高級な材料ですが、私たちは市場に出回る前の材料を「加子母」の製材所から直接買い付けて通常のひのきと同等の価格で提供しております。東濃ひのきの柱は、見ているだけで嬉しくなる。触れて気持ち良い。そんな素材を標準仕様として使います。
素材に関連して構造材の土台・大引も全てひのきの無垢材、また梁材には米松の無垢材を使います。
梁にはもう一種類、一般的によく使われるのが杉です。杉は木肌が美しいため化粧材として優秀ですが、やわらかいために構造金物の効きに少々難があると考え、私たちは米松の梁を採用しています。
◆耐震性能
もうひとつ、皆さんがよく耳にするのが「耐震性能」「耐震等級」という言葉でしょう。
耐震性能というのは地震や風・積雪に対して建築物が持つ構造強度のことです。難しい内容なのでかみ砕いて説明いたします。
本来複雑な建築物の耐震性能を分かりやすくするために、国からのお墨付きとなるような表示制度をつくろうというのが「耐震等級」の主旨です。
その中でも耐震等級は1~3に分類され、「耐震等級3」は簡単に言うと建築基準法の1.5倍の耐震性能のある建築に付与される称号のことです。
私たちは建築基準法の壁量計算で必要と定められた筋交い量をはるかに超える量の筋交いを入れております。具体的な数値は物件ごとに異なりますが、一般的な耐震等級3等級に必要とされる壁量をさらに大きく上回るよう設計することを標準仕様としております。
筋交は全てひのきの無垢材で、これも1本あたり、法で定められた必要な断面積の1.3倍のものを採用しています。
筋交を全て入れ終えると、向こうの景色が見えなくなるくらいの量の構造筋交いが入ります。
筋交を使わず、針葉樹合板や耐震面材による耐震補強は簡単に高強度となる数値を設計できます。高温多湿な日本において湿気による劣化や、地震の連続加震に対する釘の効き方の信頼度において筋交いの方が強度を長期間担保できると考え、基本的には採用しておりません。
◆構造架構の重要性
そして最も重要なのが、これまで紹介した素材・構造材を「美しい架構配列で設計する」ということです。
これは基本的なことではあるものの、意外とできていない設計が多数見受けられます。
1階と2階の壁配置の不整合、通し柱の配置計画の不具合、梁接合位置のズレ…建築士の描いた図面でも不整合が多数あり、そのまま建築されていきます。
構造的には弱くなる手法でも、計算上問題無いからです。
新築の時は良いでしょう。しかしどんな建物でも時間が経過すると劣化していきます。
そんな中で長期にわたって構造信頼度が担保できる設計手法とは、計算だけでなくそもそも組み方や骨格自体に強さがあって、経年変化してもなおバランスの良い建物をつくることだと考えています。
極端な例を出すとすれば、ずっと片足立ちしているより、両足で立ち続ける方が安定するでしょうということです。
そのためには構造材の配置に明確な構造根拠があり、建物の立ち姿がそもそも安定した「自然な立ち方」でないといけないと思います。
見ただけで不自然な建物はいくら法的に問題無くても「良い建築」ではありません。法律は時代に沿って、その都度変わるからです。
私たちは建築が当たり前に強く美しく建つ、その「立ち姿」を大切にしています。